認知行動療法は、今や医療のみならず、教育や福祉、ビジネスの世界にも広がっています。それだけ効果が高いと認知されてきたからです。ただ誤解もあります。認知行動療法は「活動記録表やコラム法を行う治療法だ」という短絡的な理解をされることもあり、これは悩む方々への悪影響をもたらしかねません。そこで、このカテゴリーでは、認知行動療法のことをなるべくわかりやすくお伝えしていきたいと思います。
認知行動療法の確立された経緯
認知行動療法は、アーロン・ベック(米国)によって確立されました。ベックについて少しお伝えしますね。
1959年、ペンシルベニア大学精神医学助教授だったベックは、ある研究を始めます。
精神分析的な仮説として「うつ病は自分に向けられた攻撃性である(敵意の反転)」という仮説を証明しようとしたそうです。ところが、実験結果は仮説に反したものでした。「うつ病の人は失敗を求めているのではなく、自分について否定的な見方をしたり、幸せになろうとする自分の力にもネガティブな見方をしてしまうことによって、現実を歪めて捉えてしまうのだ」という結論になったのです。
つまり、心の奥深くに何か隠された観念や願望があるわけではなく、自分をどう捉えるかという自己観そのものに、歪んだものが組み込まれていると捉えた方が自然であると結論づけたのです。ここから認知行動療法理論の確立に向けて動き出しました。
「自動思考」の発見
あるクライエントの治療を行っている時のこと。、突然不快な感情をあらわにし始めました。そこで、今どんな気持ちだったのかを尋ねると「なんという言動を見せてしまったのか、これでは嫌われてしまう、自分が間違っている」と自責の念を訴えるという場面に遭遇します。それをきっかけに、他のクライエントにも注意深く調べていくと、決して口に出さない考えを抱いていることが判明。これを「自動思考」と名付けました。
自動思考とは、意識している思考とは別に、意識されない思考のことで、自分が体験すること一つ一つに註釈をつけてくるということが分かったのです。しかも、うつ病の人は、とてもネガティブに偏っている自動思考を持っていることを見出したのです。
認知の情報処理
1970年代に入り、それまで主流だった行動療法(行動をターゲットに強化・弱化といった行動制御を訓練する技法)から、情報処理の過程が人の行動に影響を与えるという考えが加わったことで、認知の果たす役割やその重要性が認められ、これまでの行動療法とは一線を画し「認知行動療法」へと発展させていきました。
感情モニター
生きものが生き延びていくためには、置かれた環境に適応することが必要です。何か刺激が加われば、それに対処する必要がありますし、環境が変化すれば、それに合った行動が求められます。進化の過程で感覚器が複雑になり、記憶できる量も増え、入力される情報を脳に集め、統合・処理された結果、行動を決めていくという情報処理過程が必要になりました。しかも、素早く、効率よく、一気に行動が起こせるために「感情」というモニターを細やかに作り込んだのが人間というわけです。
闘争闘争反応
そのおかげで、危険を察知すればすぐさま「逃げるのか」「闘うのか」を一瞬で判断し、行動へと導くことができます。怒りを駆り立てて相手を攻撃しようとするのか、恐怖を駆り立ててすぐに逃げようとするのか、意識に止めることなく、瞬時に決定させていくのです。この緊急システムは、何も緊急時に限りません。私たちの日常生活にもどんどん取り入れられ、間違った行動へと導かれてしまうという誤作動も起こすようになったと考えられます。
誤作動
例えば、情報が足りない状況であっても、瞬時に判断しようとすれば、間違いが起こりやすくなります。過去にあった出来事を参考に「きっとこうに違いない」と思い込みをつくることで、素早く対処できる可能性もありますが、いつも同じ間違いをくり返してしまうということも起こります。つまり、認知の誤りは、駆り立てる「感情」に誤作動を起こさせ、間違えた「行動」へと導いてしまうというほど大きな影響力を持つのです。そこで、短絡的な認知の情報収集をいかに適正に行えるようにするか。認知や行動に焦点を当てながら新たな情報を得たり、過去の記憶を遡って検証したり、情報の適正処理を手に入れることの重要性が解かれていきました。
認知行動モデル
気分や感情、行動は、その人のものの捉え方や考え方、つまり「認知」によって影響を受けると考える認知行動モデルに基づいているのが、認知行動療法です。出来事が感情を駆り立てたのではないのです。その出来事をどう判断したかによって感情が生まれているのです。
認知行動療法の基本的な考え方
認知行動療法では「感情や行動は、その人の認知によって影響を受けている」という考え方に基づいています。
湧き起こる感情や行動は、瞬時に頭に浮かぶ考えやイメージによって変化すると考えます。
気分や感情は、なかなか変えることは難しいです。ところが、認知や行動は比較的アプローチがしやすいので、もっと適応的な考え方や、健康的な行動パターンを習得することで、認知や行動を修正し、悪循環を断とうという試みなのです。さらには、自動思考の根底にはスキーマがあり、スキーマが様々な不適応の根源となっていると考えられています。(スキーマについては別掲載)
いかがだったでしょう。
カウンセリングの中では、必要に応じて、ご相談しながら認知行動療法を用いるようにしています。認知行動療法といっても様々な技法があります。一つ一つご相談しながら進めていきますので、ご安心くださいね。