不安や恐怖を克服するための心理療法の一つ、暴露療法(エクスポージャー)について簡単にご説明します。初めて聞く方、不安になりやすい方に少しでもお役立ていただければと思います。
暴露療法とは
不安になりやすく、ちょっとしたことでも恐怖心が湧き起こり、足がすくんで前に進めなくなってしまうことの多い方が、苦手な状況に直面しても、勇気を持って対処できることを目的にしたものです。苦手な状況は人それぞれですが、人前で話す、見知らぬ人と会話をする、自分の意見を伝えるなどの場面で不安が襲い、とっさに逃避してしまうことで悩んでいる方が多いかもしれません。簡単に言えば「慣れることで、不安や恐怖心が薄れていく」ことを目的にしています。
暴露療法のしくみ
ここで具体的なしくみについてまとめてみます。
■意識して回避行動を減らす
とっさに回避してしまうという行動を繰り返していると、不安は消えるどころか、かえってそのことに対して「不安が強まってしまう」というカラクリがあります。『やだ!』と瞬間に恐怖が襲い、とっさに避ける、大声を出して威嚇するということも、反対に、そのことに対して不安を強めてしまうのです。ですので、暴露療法では、回避行動を意識して減らしていきます。
■慣れる(脱感作)
少しずつ「怖い!」と感じてきたことに触れていきます。最初は安全な場所で、安全であることを確認しなら、頭の中でイメージしてみることから始めてみます。さらに、具体的な場面を想定し、またさらに、小さなステップで行動に移していくように、スモールステップで少しずつ負荷をかけ、心とからだを慣らしていきます。
■認知を変化させる
回避せずに直面した後は、必ず「怖いと思っていたけれど大丈夫だった」「心配していたことは何も起こらなかった」という学習を丁寧に確認していきます。新しい記憶を意識的に形成させていくのです。
暴露療法の種類
暴露させる方法には、いくつか種類があります。
<イメージ暴露>
実際は安全を感じている空間に身を置きながら、意図的に、恐怖を感じる場面を思い浮かべてみるのです。
<現実暴露>
実際に恐怖を感じる場面に、段階的に触れていきます。
<VR暴露>
安全な場所にいながら、バーチャルリアリティ(VR)を使って、恐怖を感じる場面に触れていきます。
暴露療法のすすめ方
①リスト化
まず、恐怖の対象のリストを作成します。「人前で話す場面」「初対面の人と話す場面」「人に注意をする場面」など、具体的な場面を書き出してみましょう。
②段階をつくる
恐怖を感じる強度を考えてみます(「強い恐怖心を感じる」〜「少し怖いと感じる」数値化させてみるとわかりやすいです)。そして、順番に並べてみましょう。
③いざ!挑戦!
一番弱い「少しだけ怖い」ことから始めていきます。深呼吸をして、気持ちを整え、実際に恐怖の対象に、回避せず触れていきます。
④成功を確認する
必ず最後は「大丈夫だった」「何も起こらなかった」「心配はいらない」と、確認していきます。そうやって挑戦を続けて、成功体験を意識していくことで、自信をつけていきます。
できることから初めてみましょう
暴露療法は、科学的にも広く効果が証明されています。例えば、不安障害や、強迫性障害、またPTSDの治療にも効果があることは知られています。暴露療法のしくみを知ると、普段の日常生活の中においても、実際にやってきていることがたくさんあることに気づかされると思います。
なんだか嫌だなと思っていたこと(例えば、飛行機が怖い、他人と一緒に入る温泉が嫌だ、プレゼンが苦手、など)も、克服できていくことに驚くと思います。そして、日々の生活がとても楽になっていくことを実感することになります。
ただ、ここで一つ注意点をお伝えしておきますね。それは、決して無理に進めないということです。やり方によっては逆効果となり、悪化してしまうことがあるからです。長きに渡って強い恐怖を感じてきた対象であればあるほど、専門家のサポートが必要だということを覚えておいてください。